平成19年度ではAT1aノックアウトマウスと野生型マウスにおける圧負荷肥大心の電気生理学的形質の差異について解析した。具体的には、12-14週齢のAT1aノックアウトマウスと野生型マウスに対して、人工麻酔開胸下で大動脈弓縮窄術を施行し、術4週間後に両群で同等の心肥大・心筋線維化(構造的リモデリング)が生じることを確認した後、それぞれのマウスに電気生理学検査を施行、悪性不整脈の誘発頻度を比較した。その結果、AT1aノックアウトマウスでは圧負荷により野生型マウスと同等の心肥大が起こるにもかかわらず、不整脈の誘発率は明らかに低下していた。このことはAT1aシグナルが構造的リモデリングとは独立して、直接電気的リモデリングに関与していることを示唆する。 さらにその分子機序を検討する目的で種々のイオンチャンネル遺伝子についてその発現解析を、候補遺伝子に対するreal-time PCRおよび心臓から抽出したRNAを用いたマイクロアレイ解析にて行ったが、少なくとも不整脈発生に関わるような遺伝子のうち、遺伝子発現レベルで有意な差を示すものは見当たらなかった。そこで現在我々はアンジオテンシンIIの下流のシグナルによってpost-translationalに調節される可能性のある蛋白について検討を開始している。また、我々の研究室において確立した心不全・突然死モデルマウスであるdominant-negative NRSF transgenic mouseとAT1aノックアウトマウスを交配し、その突然死におけるAT1aの関与を検討中である。
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