本研究では、アンジオテンシンIIタイプ1a受容体欠損マウス(AT1a KO)をもちいてレニン・アンジオテンシン系の頻拍性不整脈発生への関与とその分子機序について検討した。AT1aKOでは圧負荷モデルにおいて野生型と同等の心肥大(構造的リモデリング)を示すことが知られているため、圧負荷肥大心を作製し電気生理学的検査にて頻拍性不整脈の起こりやすさ(電気的リモデリング)のみを検討することが可能となる。そこでAT1KOに圧負荷肥大心を作製し、不整脈の起こりやすさ、またその機序に関して、野生型マウスと生化学的、分子生物学的、組織学的、電気生理学的に比較検討し、AT1a受容体の致死性不整脈発生への関与とその分子機序を検討した。その結果、AT1aKOでは圧負荷により野生型と同程度の心肥大、線維化が起こるにもかかわらず、不整脈誘発試験による悪性不整脈の発生が有意に少ないことが明らかとなった。さらにAT1aKOを申請者の研究室が作製した心不全・突然死モデルマウスであるdominant-negative NRSF transgenic (dnNRSF Tg)マウスと交配し、その突然死・不整脈発生への影響も検討したが、やはりAT1aKO ; dnNRSF TgはdnNRSF Tgより有意に生存率が改善していた。以上のことから圧負荷肥大心および拡張型心筋症モデルにおいてAT1a受容体シグナルは悪性不整脈の発生に重要な役割を果たすことが明らかとなった。さらに、AT1a受容体シグナルが突然死・致死性不整脈発生に関与する機序に関してもマイクロアレイ、候補遺伝子アプローチなどにより探索を行なった結果、AT1KOではgap junctionを形成するチャンネル蛋白であるconnexin43の蛋白発現が低下していること、その機序にsrcキナーゼによるconnexin43のチロシンリン酸化が関与することを見出した。このことはRAS系阻害薬の抗不整脈効果の分子機序の一端を明らかにすると同時に、悪性不整脈予防薬開発にかかわる標的をひとつ明らかにできたものと考えている。
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