研究概要 |
急性心筋梗塞患者においては様々なサイトカインが心臓で産生され,特に,梗塞部心筋,特に梗塞部の血管内皮細胞で産生される胎盤由来成長因子(PlGF)が慢性期の心機能の改善に寄与していることが明らかになった(JACC 2006;47(8):1559-1567)。PlGFはVEGFのHomologであり,VEGF receptor-1(Flt-1)を介して血管新生に作用することが報告されている。また。幼弱血管ではなく壁細胞を伴った成熟血管を増殖させることにより,VEGFによる血管新生におこりやすい浮腫,低血圧,出血,血管腫の形成などの副作用を軽減すること,arteriogenesisによる側副血行路の形成などの作用が考えられている。急性心筋梗塞では,梗塞部心筋組織,特に血管内皮細胞でのPlGF発現が発症早期から亢進する。再灌流療法は梗塞心筋からのPlGF遊出を促進し,PlGFの血中濃度の上昇は骨髄細胞を含む血中単核球分画の動員を介して慢性期の心機能の改善に寄与する可能性がある。 今回,われわれは,マウス心筋梗塞モデルにつき検討した。まず,リコンビナントヒトPlGF(rhPlGF)蛋白,可溶性Flt-1蛋白の作成と安定した心筋梗塞モデルマウスの作成に成功した。さらに,オスモティツクミニポンプを用いてPlGF蛋白の持続腹腔内投与を施行した。MI作成28日後の生存率はrhPlGF投与群でPBS群に比して52%の改善を示した。心エコーではrhPlGF群において壁運動の有意な改善と左室拡張末期径の縮小を認め,PlGFの左室リモデリング抑制効果が示唆された。また,免疫組織化学では,PBS群に比してrhPlGF群の梗塞部においてCD31陽性血管およびαSMA陽性血管数が有意に増加し,傷害心筋での血管再生がrhPlGFの予後改善効果に関与していると考えられた。
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