急性心筋梗塞の急性期治療法は、カテーテルによる再還流方法が第一義であるが、それと併用する、あるいは、その効果を増強するような、薬物療法はまだ完全に確立していない。VEGF等の血管新生因子による治療効果が注目されていたが、2重盲検試験ではその効果が認められなかった。 我々はすでに、急性心筋梗塞症例において、梗塞層の血管内皮細胞や侵潤細胞において、VFGFのファミリーであるPIGF(Placental growth factor)の発現が25倍以上に増加していることを発表してきた(JACC 2007)。 本研究では、その増加しているPIGFの心筋梗塞治癒過程に及ぼす効果を明らかにするため、薬理量のPIGFを外因性に投与する場合と、PIGFに対する内因性のブロッカーであるsFLTを投与する場合を検討した。 1) PIGFの投与 マウスに急性心筋梗塞を作成する1日前より3日間、リコンビナントヒトPIGF(rhPIGF)10□gを浸透圧ミニポンプを用いて腹腔内に連続投与すると、PBSのコントロール群と比べて、発症後28日までの予後が有意に改善した。心筋梗塞作成7日後の梗塞サイズはPIGF群では4.25+2.04mm^2とコントロール群の5.95+1.54mm^2と比べ有意に縮小していた。28日後では7日後と比べ逆に、梗塞部の面積は5.58+2.76mm^2とコントロール群の3.37+2.00mm^2と比べ有意に大きかった。これは、組織学的にさらに検討すると、梗塞部に残存心筋がコントロール群より有意に生存していることが観察され、そのためにTTC染色では梗塞部の面積が大きく測定されたと考えた。このことを反映して、心エコーで測定した心機能はPlGF群の方が有意に心機能が保存されていた。この機序を解析するために、梗塞部位における新生血管を調べるとPIGF群では有意にCD31陽性細胞が多くさらに、αSMA陽性の平滑筋を同時に持つ新生血管が多く、成熟した血管がPIGF群で有意に多く申請したと考えられた。これが、梗塞層の治癒機転に良好に作用したと考えられた。 このPIGFの効果をより確実にするために、PIGFの内因性のブロッカーであるsFLTを同時に投与すると、PIGFの良好な効果はすべて抑制され、PIGFによる効果が確認された。 2) sFLTの投与 sFLTを急性心筋梗塞発症前より1週間単独に投与するして、内因性に増加したPlGFの効果をブロックすることで検討した。sFLTの投与では予後を改善することはできなかったが、心機能はコントロール群より有意に悪化した。 これらのことより、急性心筋梗塞時に内因性に増加するPIGFは梗塞の治癒に良好な方向に働いているが、予後を改善するほどには至らず、外因性にさらに大量のPIGFを投与することによってその効果が増強されることが明らかとなった。PIGFが急性心筋梗塞の急性期の治療法の一つになる可能性が示唆された。
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