研究概要 |
本年度の計画に従い,我々はウレタン麻酔下でララト冠動脈前下行枝を結紮することにより心筋梗塞モデルを作成し,グレリン(150μg/kg)皮下注射群と生理食塩水注射群にて,心臓交感神経活性,心拍数,血圧を梗塞作成後5時間までモニターした。なおグレリンの投与は,梗塞作成直後に投与した群と,実際の臨床現場を想定し,梗塞作成後2時間で投与した群をもうけた。結果,生理食塩水投与群では13匹中8匹が当日死亡し(死亡率61%),うち致死性心室性不整脈によるものは6匹であった。一方,グレリンを梗塞直後に投与した群では13匹中3匹が当日死亡し(死亡率23%),うち致死性心室性不整脈によるものは1匹であった。グレリンを梗塞後2時間で投与した群の死亡率は25%であった。グレリン投与による死亡率改善は統計学的にも有意なものであった。梗塞作成により,心臓交感神経活性は2倍以上に急上昇したが,グレリンの梗塞直後投与により完全にべースラインに保たれた。また,梗塞後2時間でのグレリン投与においても,投与後約3時間後にはほぼべースラインに戻った。なお,梗塞サイズはグレリン投与群および生理食塩水投与群問で差を認めなかったが,血圧は梗塞2時間後にグレリンを投与した群でわずかだが有意な低下を認めた。心筋梗塞直後の心臓交感神経活性の急激な上昇は,致死性心室性不整脈を誘発するとの報告があり,今回の結果はグレリンが心筋梗塞後の心臓交感神経活性上昇を抑制し,致死性不整脈の発生を抑えることで,死亡率の著明改善を来したと思われる。
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