非小胞性肺癌における癌抑制遺伝子の新規候補であると我々が報告した日内変動遺伝子Per1の発現の有無が、予後に関して独立した因子になりうるかどうかについて、臨床経過が追跡可能であった症例を用いて統計学的に解析をおこなった。その結果、Per1のメッセージ発現の有無と非小細胞性肺癌の予後には統計学的有意差は認められなかつた。このことからPer1の発現の低下は肺癌の予後や悪性度には寄与せず、発癌自体に関与している可能性が示唆された。加えて、Per1遺伝子を乳癌など他の細胞株で強制発現させると細胞増殖が抑制されたという実験データも考慮すると、Per1は肺癌のみならず、他の癌種においても発癌に寄与する普遍的なtumor suppressorであることが示唆された。非小細胞性肺癌においては、現在、p53とRBの2系統の経路が癌抑制的に働くと考えられているが、Per1がこの経路に集約されるのが、あるいは独立した癌抑制系経路を形成しうるのかはいまだに解明されておらず、発癌に普遍的に関与する経路の検索も考慮しながら、Per1のtarget geneに関る見の集積が今後も必要な段でる。 一方、マイクロアレイから得られている遺伝子リストのなかからPer1以外で新規癌抑制遺伝子の候補について検索を行った。現在までに報告されている機能を考慮しながら、癌抑制遺伝子としての条件に合致するいくつかの候補に絞り込んでいった結果、今回ATF3という遺伝子に着目した。実際、非小細胞性肺癌の臨床検体を用いてATF3のメッセージレベルの発現を解析した結果、58%(14/24)の症例で発が正常肺組織の50%以下に低下していることが判明した。この遺伝子の癌抑制遺伝子としての可能性およびその機能について今後さらに検討を進めていくところである。
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