研究概要 |
本研究は、肺コレクチン(肺サーファクタント蛋白質A及びD : SP-A, SP-D)の炎症制御機構、および、肺コレクチンによるマクロファージの細胞内寄生菌貪食促進分子機構を解明し、肺の感染防御及び臨床応用を目指し、その基盤確立を目的として遂行された。以下に本年度の研究成果を要約する。 1. Sp-DがLPS惹起炎症性細胞応答を抑制することを明らかにした。SP-Dは、LPSとその受容体との相互作用を変化させることにより、LPS惹起炎症応答を抑制し、SP-Dの十字架様構造がその抑制効果に重要であることを示した。 2. 肺コレクチンとレジオネラ菌体が直接結合することを見いだした。肺コレクチンは、糖鎖認識ドメイン(CRD)を介し、レジオネラ菌体とカルシウム依存性に直接結合することが明らかとなった。さらに、肺コレクチンは、レジオネラ菌体由来LPSとカルシウム依存性の結合を示した。 3. コレクチンは培地中でのレジオネラの増殖を抑制することを明らかにした。さらに、その効果はEGTA及び菌体由来LPSの添加で失われることが示された。 4. 肺コレクチンがレジオネラのマクロファージ細胞膜障害活性を抑制することを明らかにした。 5. 肺コレクチンはマクロファージによるレジオネラの貪食を促進し、細胞内増殖を抑制することを見いだした。レジオネラは、マクロファージに被貪食後、ファゴソームとリソソームの融合を阻害し、消化を逃れることで細胞内に寄生する。しかし、肺コレクチン存在下におけるレジオネラの貪食では、貪食されたレジオネラが細胞内で肺コレクチンと共局在しており、肺コレクチンが、リソソームのマーカー蛋白であるLAMP-1とレジオネラとの共局在を増加することを明らかにした。 以上のことから、SP-DはLPS惹起炎症応答を抑制することが明らかとなった。さらに、肺コレクチンはレジオネラと直接結合し、マクロファージヘの膜障害作用を抑制すると共に、貪食後のファゴソームとリソソームの融合を促進することにより、細胞内増殖を抑制していることが明らかとなった。このことから、肺コレクチンがレジオネラ菌体感染過程において重要な生体防御機能を担っていることが解明された。
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