研究概要 |
シスプラチンによる抗がん作用を高め、その副作用である腎障害の予防や軽減ができる薬はがん患者にとって大きく予後やQOLを改善させることができる。本研究の目的はNFκBの活性化阻害薬ががん細胞においてはシスプラチン感受性を亢進させ、正常尿細管細胞においては感受性を軽減させるか否かを検討することである。 シスプラチンはヒト腎尿細管細胞(HK-2)に対して用量依存性にcell viabilityを低下させる。二つのNFκB阻害薬(pyrrolidine dithiocarbamate, BAY11-7082)を用いてシスプラチンに対するHK-2細胞のcell viabilityを検討したところ、NFκB阻害薬はシスプラチンによるcell viabilityの低下を有意に抑制した。さらに、シスプラチンによって増加した細胞障害(LDH放出率)とアポトーシス(細胞周期のSubG1期)はNFκB阻害薬で有意に抑制した。このことから、NFκB阻害薬は、正常尿細管細胞においてシスプラチン抵抗性をもたらすことが明らかとなった。 一方で、がん細胞におけるcell viabilityの検討では、卵巣がんでNFκB阻害薬がシスプラチン感受性を高めるという報告がされており、我々は胃がんと乳がんの細胞でシスプラチン感受性を検討したが、NFκB阻害薬はシスプラチン感受性を変えなかった。現在、他のがん細胞でのシスプラチン感受性の評価を行っている。 これらのことから、NFκB活性化は、正常腎尿細管細胞とがん細胞におけるシスプラチン感受性を変え得る治療ターゲットであることが示唆され、詳細のメカニズムは今後の検討課題である。
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