腎尿細管特異的な薬物トランスポーターであるOATN1(novel type organic anion transporter 1)の生理機能を明らかにするため、knockout mouseを作成しCE-MS法を用いて尿中化合物の網羅的ディファレンシャルディスプレイを行った。その結果、野生型ではほとんど尿中へ排泄されないケトン体がOATN1 knockout mouseにおいては有意に増加していることが明らかになった。これをよりはっきりと確かめるために、糖尿病を惹起させ、血中のケトン体濃度を上昇させた時のケトン体の尿中への排泄を検討したところ、OANTl knockout mouseにおいて有意なケトン体排泄が認められた。以上のことから、OATN1が生体内においてケトン体の再吸収トランスポーターとして働いていることが明らかになった。本研究の意義と重要性は以下の二点である。一つは、ゲノムプロジェクト以降、まだ多数残る生理機能が不明のトランスポーター(オルファントランスポーター)の解析方法として、knockout mouseにCE-MS法を応用した生体内分子の網羅的解析方法を実現したことである。今後のトランスポーター研究において、オルファントランスポ一ターの生理機能の解明だけでなく 既に機能が知られているトランスポーターの再評価にとても重要な手法となってくると考えられ、本研究は世界に先駆けてその手法を示したものである。二つ目は、長らく不明であったケトン体の再吸収トランスポーターの分子実体を明らかにした点である。ケトン体はグルコースが使えない状態における第二のエネルギー源であり、糖尿病を含め様々な病態で重要なものとなってくる。医療・医薬への応用も期待される。
|