研究概要 |
疼痛は脳幹を経由して大脳皮質へ伝達される.中脳水道周囲灰白質 (PAG) は疼痛に対して抑制的に働く.片頭痛患者では脳幹部の終痛制御機構の機能異常が指摘されている.疼痛刺激に対する脳幹部の反応に関して,健常成人と片頭痛患者との違いを明らかにし,脳幹部の疼痛関連構造の機能的役割について,機能的 MRI (fMRI)を用いて検討した.7例の発作間欠期片頭痛患者と,17例の健常成人との右前脛骨部に5%高浸透圧食塩水を皮下注射し,局所的な鋭い疼痛を誘発させた.誘発される疼痛の強度を主観的に評価した.疼痛に対する脳反応について fMRI を用いて記録した.先行研究と同様に,片頭痛群,健常成人群共に終痛刺激により体性感覚野,帯状回,島部,小脳の活性を認めた.健常成人群では脳幹部の反応が認められ,疼痛強度と PAG 反応とは有意な負相関を示した.PAG をはじめ脳幹部が疼痛制御に関与していると考えられた. また片頭痛群でも脳幹部の反応が認められ,健常成人群よりも強い反応を認めた.繰り返す片頭痛発作により,脳幹部における疼痛制御機構の代謝活性が過剰亢進し,疼痛刺激に対する活性が低閾値化していると考えられた.一方,疼痛強度とPAG反応とは有意な正相関を示した.これは片頭痛発作のためにPAGの神経傷害が起こり,疼痛制御が十分に機能しない状態であると推察できる.さらに片頭痛の罹病期間とPAG反応とは有意な負相関を示した.片頭痛罹病期間が長くなる程,脳幹部神経傷害が強くなり,疼痛に対するPAG反応が乏しくなることが推察された. 本研究は,片頭痛における脳幹部機能異常を可視化することに成功し,発作間欠期でも脳幹部の疼痛制御機構が障害されていることが証明された,世界初の報告である.片頭痛の病態生理として,現在確立している三叉神経血管説だけでなく,脳幹部の疼痛制御機構の機能異常が関与していることを支持する,大変重要な結果であったと言える.
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