1. ALSに対するミクログリア関連炎症機転の解析と治療法の開発 私たちは、蛍光ビーズを用いたフローサイトメトリー法(fluorescent bead-based immunoassay)により、比較的進行の遅い脊髄性進行性筋萎縮症とALS患者髄液中サイトカインを測定比較し、MCP-1、G-CSFに加えて、ALSではONDやSPMAより髄液中のIL-1β、IL-8、IL-9、IL-17、tumor necrosis factor-α(TNF-α)、eotaxin、macrophage inflammatory protein-1β、interferon-γ-inducible protein-10などの炎症性サイトカインおよびVEGFが有意に上昇していることを見出した。髄液中MCP-1の上昇はALSの臨床的重症度の悪化(ALS FRSの低下)、髄液蛋白値と正の相関を示し、炎症機転(glial inflammation)の運動ニューロン障害への寄与が考えられた(投稿準備中)。髄液VEGF値はIL-1βやTNF-αと正の相関を示したことから、その上昇にはglial inflammationの関与が示唆された。私たちはALS患者の脊髄前角細胞における、VEGF、VEGF受容体、VEGF転写因子であるHIF-1αの発現を免疫組織化学的に検討した。ALSでは非神経疾患患者と比較して、脊髄前角細胞においてVEGFおよびVEGF受容体の発現が低下する一方で、HIF-1αの発現は細胞質では亢進していたが、核内ではむしろ発現が低下していた。これに対して、アストロサイトではVEGFの発現が亢進しており、髄液中でのVEGFの上昇はアストロサイトに由来していると考えられた。他方、mSOD1遺伝子導入マウスではHIF-1αの核内移行は保たれていた。したがって、ヒトの孤発性ALSの発症機序には、VEGFとその受容体の運動ニューロンにおける発現低下が関与し、発現低下のメカニズムとして、運動ニューロン内のHIF-1αの核内移行の障害が寄与していると考えた。
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