アルツハイマー病(以下、ア病と略す)は最も頻度の高い神経変性疾患であり、認知症の最大の原因となっている。その病因は不明であり、治療薬としてはコリンエステラーゼ阻害剤の塩酸ドネペジル(アリセプト)が認可されているが、その効果は乏しく、。超高齢化社会を迎える我が国において治療薬開発は急務とされている。本研究では、STAT3分子による認知・記憶障害改善のメカニズムを解明し、またそのア病への関与を検討する。第一に、STAT3活性低下のア病発症への関与を検討する為、種々のア病モデルマウスを用いて年齢依存的、遺伝系依存的なSTAT3活性状態の変化を検討する。また、この際に、実際のア病患者における関与も検討する為、孤発性ア病患者脳サンプルにおけるSTAT3の活性状態も検討する。第二に、HN誘導体が抗コリン剤誘導性記憶障害に対して強い拮抗作用を示すことに着目し、コリベリンのコリン作動性神経保護作用を検討する。第三にSTAT3を活性化する神経保護因子HNおよびコリベリンを用いて、ア病モデルマウスに対する治療効果を検討する。また、第四にSTAT3が認知・記憶機能に重要な役割を果たしているかを検討する。 本年度は、ア病モデルマウスおよびア病患者脳におけるリン酸化STAT3の免疫組織化学を実施し、海馬においてア病特異的にSTAT3分子が不活性化されていることを確認した。また、コリベリンのコリン作動性神経に対する作用の解析から、コリベリンがコリンエステラーゼ阻害作用を持たず、STAT3活性化によってムスカリン型アセチルコリン受容体の細胞内局在を変化させることによってアセチルコリン感受性を増大していることが判明した。さらにコリベリンをア病モデルトランスジェニックマウスに投与してその記憶障害改善効果について確認した。
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