研究概要 |
ラットの両側総頸動脈永久閉塞モデルを用い白質障害後の組織再生機能について解析した.脳虚血後の脳梁ではBrdU陽性新生細胞がsham群に比し14日をピークとして有意に増加していた(sham22.2±3.8,vehicle 101.8±15.8,p<0.001).これらBrdU陽性細胞の81.4±2、4%がPDGR-α陽性のオリゴ前駆細胞(pOligo)で,13.6±2.68%がGST-π陽性の成熟したオリゴデンドロサイト(Oligo)であった.次にオリゴ前駆細胞の細胞死について,ssDNA染色を用い検討した.ssDNA陽性細胞は脳虚血後28日をピークとしてsham群に比し有意な増加を認め(sham7.5±1.2,vehicle28.4±3.4,p<0.001),BrdU/ssDNA陽性細胞の割合はsham群に比し脳虚血群で有意に多いこと(vehicle/sham=2.7,p<0.001)が確認できた.これらから慢性脳低灌流下ではpOligoが再生するも,その後の分化・成熟が不十分であり,細胞死に至ると考えられた.以前の報告から脳梁のOligoに影響するPDE-3阻害剤を用いt新生細胞の観察を行った.脳虚血後同薬剤を経ロ投与したところ,薬剤投与群ではBrdU陽性細胞は脳虚血7日後に虚血群同様に増加し(90.8±18.3,p<0.001),その後減少した.BrdU陽性細胞の生存率を観察するために,脳虚血14日にBrdUを投与し脳虚血21日に組織を観察したところ,阻害剤投与群において新生細胞の生存率が非投与群に比し有意に高いことが示された(PDE-3/vehicle=1.9,p<0.001).さらに新生細胞の同定を行い,阻害剤投与群では非投与群に比しPDGFR-α/BrdU陽性のpOligoの比率が減少し(PDE-3/vehicle=0.71,p<0.001),GST-π/BrdU陽性の成熟オリゴデンドロサイト(mOligo)が有意に増加している(PDE-3/vehicle=1.38,p<0.001)ことが確認された.さらにOligoの栄養因子basicFGFのレベルを解析したところt脳虚血群ではsham群に比し明らかにbFGFの発現が低下していたが,阻害剤投与群ではbFGFの発現が非投与群に比し改善していた(28日後sham94.3±13.1,vehicle31.3±10.5,PDE-380.2±14.1,p<0,001).これらの結果から慢性脳低灌流状態では白質障害部位においてOligoが再生し,組織修復に関与している可能性が考えられる.しかしながらこれらの新生細胞は正常な分化・成熟・維持が行われずに細胞死の経過をとる可能性が高い.一方でPDE-3阻害剤はこれら新生したOligoの分化・維持にbFGFの発現増強を介して機能していると考えられた.今後さらなる解析を進めていく.
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