研究概要 |
MRIなどで描出される深部白質病変は, 認知機能低下などに関与する. ラットの両側総頸動脈永久閉塞モデル(BCCAO)を用い白質(脳梁)病変形成のメカニズム, 再生能を検討した. 平成19年度にはラットBCCAO下ではオリゴデンドロサイト(OL)前駆細胞(OPC)が増殖するも, その後成熟せずに細胞死に至る. OPCの生存と分化はPDE3inihibitor(PDE3I)によって促進することが確認され, 白質の再生と機能回復に関与した. 平成20年度では, ラット慢性脳虚血後にPDE3I投与し、その阻害剤であるH7(PKA, PKCinhibitor)を虚血後7日〜14日の間脳室内投与を行いOPCの増殖分化能と白質の再生能を評価した. その結果H7投与群では白質障害の程度が非投与群より有意に悪化し, またGSTπ陽性細胞の減少,PDGFR-α陽性細胞の増加, BrdU/GSTπ陽性細胞の減少が有意(P<0.001)に認められた(GSTπ125.4±30. 8vs398.3±20.7, PDGFR-α362.4±20.5vs198.2±22.5, BrdU/GSTπ5.7±2.3vs44.8±10.4), これらの結果からPDE3IがPKA, PKCのシグナルを介してOPCの増殖・分化・成熟に影響し, 白質再生に寄与することが確認された. 一方新生したOPCの分化能確認するために, GFPを標識蛋白としたレトロウイルスを脳内に投与し検討した。PDE3I投与群では非投与群に比し, GFP陽性のOPCの多くはGSTπ陽性で, 形態的にも成熟したOLを呈しその一部はMBPを発現していた. さらにヒトの慢性脳虚血(VaD)の脳とコントロール脳を比較した。VaD群ではPDGFR-α陽性細胞, PCNA陽性細胞が有意(P<0.001)に多く認められ, GSTπ陽性細胞は有意(P<0.001)に減少していた(GSTπ26±12.1vs26±225.2±42.12, PDGFR-α81.3±4.16vs8±6.97, PCNA19.6±4.16vs0.5±0.57). ヒトの脳においても慢性脳虚血下においてOPCが増殖していることが確認され, 同部位における再生機序が存在していることが推測された. 慢性脳虚血下における白質病変形成の新たなメカニズムとしてOPCの再生障害が明らかにされ, さらに白質病変の治療の新たなアプローチが確認され臨床的にも示唆に富む結果であった.
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