肝細胞癌は高インスリン血症を特徴とした糖尿病を高頻度に合併している。インスリンは細胞増殖作用を有するため、高インスリン血症が肝発癌に関わると考えられるが、その機序は未だ解明されていない。昨年度までに、我々は、インスリンが肝癌細胞株のtuberinのリン酸化を誘導し、mammalian target of rapamycin(mTOR)を介した細胞増殖に関与する事を明らかにした。また、homeostasis model assessment for insulin resistance(HOMA-IR)はヒト肝癌組織におけるtuberin活性と有意な相関を認める事を明らかにした。これらの結果より、高インスリン血症を特徴とする2型糖尿病患者の肝発癌機序にtuberinの関与が示唆された。そこで、本年度、我々は、コリン欠乏食肝癌ラットモデルを用いて、高インスリン血症およびtuberinの肝発癌における細胞生物学的意義を検討した。コリン欠乏食肝癌ラットに対。somatostatin analogueを投与したところ、非投与群と比較して、肝癌細胞でのリン酸化tuberinおよびリン酸化mTORの発現抑制とTUNEL陽性細胞の増加を認めた。また、Rapamycin投与によっても同様こTUNEL陽性細胞の増加を認めた。本研究の結果より、高インスリン血症とそれにともなうtuberinおよびmTORの活性化が肝発癌に関与することが示唆された。
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