研究概要 |
複数の異なる組織パターン(乳頭性パターンや濾胞性パターン)から成る34の女性甲状腺乳頭癌凍結切片より、それぞれのパターン部位をマイクロダイセクションにより単離し、遺伝子学的解析を行った。BRAF変異陽性率は非常に高く(30/34,88.2%)、これはおそらく患者が比較的高齢(平均51.3歳)であったためと考えられた。BRAF変異陽性であった30例のうち、全ての組織パターンでBRAF変異が陽性であったものが27例(90%)、2例では濾胞性パターン部位に、残りの1例には乳頭性パターン部位には変異が認められなかった。X染色体におけるHUMARA遺伝子不活性化の検討の結果、全てのパターン部位にBRAF変異があった乳頭癌の80%は単クローン性と判断された。パターン部位によりBRAF変異の一致しなかった3例においては、2例が単クローン性、1例は多クローン性であった。次に、BRAFの変異部位とその周囲の遺伝子多型部位を腫瘍のクローナリティの指標として用いたところ、単クローン性、多クローン性の両方の腫瘍に、片アレルのみ、もしくは両アレルにBRAF変異が見つかった(ただし、ホモ接合性ではない)。両アレルにBRAF変異のある腫瘍では、変異の多いアレルは、全てのパターン部位で一致していた。 以上の結果より、BRAF変異はおそらくヘテロ接合性、片アレルに生じるが、腫瘍の進展に伴い、相同染色体組換えの様なメカニズムにより、別のアレルに移る可能性が示唆された。また、単一の腫瘍といえども、複数の細胞に遺伝子変異が生じた多クローン性の起源を持つものもあると考えられた。
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