オレキシンAを視床下部腹内側核(VMH)に投与すると、骨格筋に分布する交感神経活性が上昇したのに加え、骨格筋でのPI3-kinase以降のインスリンシグナルを活性化するとともに、骨格筋におけるグルコースの取り込みが上昇した。同時に、インスリンによる骨格筋でのグリコーゲン合成酵素活性が上昇し、グリコーゲン合成速度が増加した。これらのオレキシン作用は、動機づけ行動による自発的な甘味飲料の摂取に起因するオレキシン・ニューロンの活性化を伴った場合にも認められた。 オレキシンによるグルコース取り込みおよびグリコーゲン合成促進作用は、アドレナリンβ受容体ノックアウト(β-less)マウスでは起こらなかった。Electroporation法により骨格筋特異的プロモーターであるHSA-promoterを用いてβ2受容体をβ-lessマウスの骨格筋に発現させると、オレキシンによるグルコース取込み促進作用が回復したが、グリコーゲン合成促進作用は回復しなかった。そこで、非特異的プロモーターであるCAG-promoterを用いて標的骨格筋周辺にβ2受容体を発現させると、オレキシンによるグリコーゲン合成促進作用が回復した。組織学的にGFP発現を調べると、どちらのプロモーターを用いた場合でも骨格筋細胞においてGFPの発現は認められたが、CAG-prolnoterを用いた場合では血管壁においてもGFPの発現が見られたのに対し、HSA-promoterを用いた場合では見られなかった。 本研究により、自発的な甘味摂取が、視床下部オレキシン・ニューロンを活性化し、VMH-交感神経-β2アドレナリン受容体経路を介して骨格筋でのグルコース代謝を促進することが明らかとなった。また、この作用には、骨格筋およびその周辺に分布する血管壁におけるβ2アドレナリン受容体を必要とすることが示唆される。
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