研究目的の概略としては「ヒト造血器腫瘍の新規分子標的療法の開発」である。我々のこれまでの検証で、Notchシグナル阻害剤としてのγ-セクレターゼ阻害剤(GSI)がT-ALLの皮下腫瘤モデルで奏功したこと、また、GSIによる腫瘍血管への効果を観察してきた。同モデルで想定されるメカニズムとしては、GSIにより(1)白血病細胞内在性のNotchシグナル抑制(cell autonomousな直接的効果)のほか、(2)腫瘍間質の微小環境におけるNotchシグナル抑制(cell non-autonomousな間接的効果)が挙げられる。今回、腫瘍縮小へ至るこのメカニズムを検証するためにaN1によるレスキュー実験を施行した。すなわち、γ-secretaseに依存しないaN1をT-ALL細胞株(DND-41)に導入することにより安定株(DND-41/aN1)を作製し、in vitroのGSI感受性を調べたところGSI耐性の獲得が確認され、これにより先述の(1)の作用がキャンセルされると考えられた。次にXenograftモデルによるin vivo抗腫瘍効果を検討したところ、 DND-41/aN1を用いた皮下腫瘤はGSIにより部分的な増殖抑制を受けることが観察された。すなわちこの部分的抑制効果は先述の(2)に由来するものと考えられ、Notchシグナル抑制に伴う腫瘍血管の機能破綻の可能性が示唆された。またコントロール群との差異が先述の(1)に該当し、これがいわゆる白血病モデルでの真のGSI効果に相当すると推測された。以上より、Notchシグナル阻害剤(GSI)はその抗腫瘍効果において高い有用性を備えるが、これは複数の機序を有するためであることが示唆された。
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