成人T細胞白血病(Adult T-cell leukemia : ATL)は、極あて予後不良であり、新たな治療法の開発が望まれている。新規治療の開発には、ATLの病態に関連しかつ腫瘍細胞特異的に発現する分子を標的にすることが必要である。我々がSEREX法により単離したserine-arginine protein kinase 1 (SRPK1)は、正常組織での発現は精巣で高発現する癌精巣抗原様の発現形式で、正常人末梢血単核球や慢性型ATL細胞と比較し急性型ATL細胞ではmRNAおよび蛋白とも過剰発現していることが判明し、腫瘍特異的な標的分子の候補であった。SRPK1は様々なsplicing factor proteinのserine-arginine (SR) domainsをリン酸化し、nRNAのaltemative splicingを制御する分子である。Alternative splicingによるpre-mRNAの調節は、蛋白の多様性を生み出し、組織や分化段階により異なる蛋白の表現型を獲得することに一役を担っているばかりではなく、ヒトの腫瘍化においてはその調節機構が破綻し、異常なsplicingによって癌細胞の異常な表現型に関与している可能性がある。 これらを背景とし、平成20年度には、SRPK1にたいするsiRNAをもちいてATL細胞株でのノックダウンをおこない、抗癌剤投与における細胞増殖やアポトーシスへの影響を検討した。しかし、有意な差は認めなかった。また、SRPK1をノックダウンや強発現させた後の、mRNAのaplicing patternを、複数の遺伝子で解析したが、病態との関連が示唆される変化は示されなかった。 SRPK1のほかの有望な標的候補を検索するために、SEREX法でのスクリーニングをおこない、同定された遺伝子の解析を引き続きおこなった。
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