われわれはアトピー性皮膚炎(AD)の病態に強く関与しているケモカインTARC(CCL17)を表皮で恒常的に強発現するトランスジェニックマウス(CCL17-Tgマウス)を作成し、ADにおけるCCL17の関与を検討している。ADにおける苔癬化は一種の皮膚のリモデリングであり、リモデリングは創傷治癒の一過程であるため、本研究では創傷治癒におけるCCL17の影響を検討した。前年度の結果ではnon-Tgマウスと比較してCCL17-Tgマウスでは創傷の治癒が有意に促進していたが、それを追試・確認した。組織学的にも検討したところ肉芽組織の形成が促進していた。またnon-Tgマウスの創傷部位にCCL17を投与することで創傷治癒が促進されることも判明した。創傷治癒進行部位には肥満細胞がみられ、その数はCCL17-Tgマウスで多かった。前年度の研究でCCL17Tgマウスでは血清nerve growth factor(NGF)が高値であったため、その産生細胞を検討した。線維芽細胞にはCCL17の受容体であるCCR4が発現しており、CCL17刺激によりNGFの産生が亢進した。またCCL17-Tgマウス由来の線維芽細胞ではCCL17により増殖が亢進した。肥満細胞も創傷治癒に関与しているが、NGFは肥満細胞の分化や増殖、活性化にも重要である。NGFは肥満細胞を含む創傷治癒に関与する種々の細胞に作用し、創傷治癒を促進する。CCL17-Tgマウスでは表皮で産生されたCCL17が、線維芽細胞に作用して増殖を促進し、またNGF産生を亢進させ、その一部は肥満細胞にも作用し、これらの総和として創傷治癒を促進している可能性がある。ADでは血清中CCL17やNGF濃度が上昇し、慢性病変では苔癬化が生じる。NGFは気管支などではリモデリングに関わっている。よってADの苔癬化にCCL17がNGFを介して関与している可能性がある。
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