研究概要 |
HIV-1の増殖を成功裏に長期間抑制でき,かつ,CD4陽性Tリンパ球の回復が順調な症例に対しても多剤併用療法は生涯継続せざるを得ないのかという疑問に回答を与える課題が重要になっている。本研究は,治療中断後もウイルス複製抑制に成功した症例(治療中断成功例)と治療中断後に活発なウイルス複製が観察された症例(治療中断不成功例)を対象とし,末梢白血球中の残存プロウイルス量とその転写産物である全長HIV-1mRNA量を測定することにより経時的な残存プロウイルスの活動度を解析し,このパラメーターが治療中断後のウイルス複製抑制の成否を予見する候補因子と成り得るかを評価することを目的としている。本年度は,2例の治療中断成功例と3例の治療中断不成功例を抽出して測定を開始した。臨床データの収集まで完了した1例の治療中断不成功例の測定結果の概略を述べる。多剤併用療法を開始する1ケ月前では,HIV-1DNA(62copies/10^Cells)とHIV-1mRNA(5copies/10^6cells)が共に検出された。多剤併用療法を開始した後,HIV-1DNA量とHIV-1mRNA量は共に減少し,治療開始から1年後に共に検出限度(2cogies/ml)以下となった。治療中断直前(治療開始後3年3ヶ月)でも両者は検出限度以下であったが,治療中断後2週間の時点では,HIV-1DNA量(14copies/10^6cells)とHIV-1mR,NA量(17copies/10^6cells)は共に再上昇した。1例のみではあるが,この症例においては、治療中断前の白血球中のHIV-1DNA量とその転写産物であるHIV-1mRNA量は,治療中断後のウイルス複製抑制の成否を予見する候補因子とは成り得なかったと判定される。来年度,残りの症例を解析することにより,最終的な判定を行う予定である。
|