副作用等の出現により多剤併用療法(HAART)を中断したHIV-1感染症例において、末梢血白血球中のHIV-1 DNA、及び、HIV-1 mRNAを測定し、これらの因子がHAART中断後の血中HIV-1 RNA量(viral load)の再上昇を予見する候補因子として利用できる可能性を評価した。対象とした4症例のうち3症例は、HAART中断後にviral loadの再上昇が観察された症例であり、細胞内HIV-1 DNA、及び、HIV-1 mRNAは、共に、viral loadとほぼ完全に同調した推移を示した。これらの結果からは、末梢血白血球中のHIV-1 DNA、及び、HIV-1 mRNAレベルは、HAART中断後のviral loadの再上昇を予見する因子として広く利用できる可能性は低いと判断された。残りの1症例はHAART中断後、約4年9ヶ月にわたってviral loadを1000コピー/ml以下の低いレベルで維持している症例であり、HAART施行期間においても、又、HAART中断期間においても、細胞内HIV-1 DNA、及び、HIV-1 mRNAが検出されることはなかった。この結果は、HAART中断後も体内のウイルス増殖レベルが低い状態のままに維持されていることを示唆している。この症例では、HAART施行前にviral loadが14000コピー/mlあったことを考慮すると、HAARTによって入為的にウイルス増殖を抑制している期間に、何らかの内在性のウイルス増殖抑制機構が惹起し、HAART中断後もHIV-1の複製を制御することに成功したことを示唆しており、たいへん興味深い。今後、このような症例において、ウイルス増殖抑制機構を解明することにより、HIV-1感染症の治療に有益な知見が供与されると考えられる。
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