リジン尿性蛋白不耐症(以下、LPI)の本邦における臨床像の詳細な実態を把握する目的で、本邦での疑い症例に対し遺伝子解析を施行し、かつ遺伝学的に確定診断された症例については臨床所見の追跡調査を行った。さらに遺伝子系と臨床型との関連の有無について検討を重ね、遺伝子型が将来の予後予測因子となるかどうか、治療法選択に有用な情報となりうるかどうかについて検討した。 当初は文書回答依頼によって罹患者の有無を調査する予定であったが、同年度に先駆けて行った当教室での他疾患における調査回答率が低く、かつ疑診例の発見につながらなかったことを踏まえ、現在まだ認知度の低い本疾患においてこの方法は最適ではないと判断し、ハガキによる調査を見合わせた。代替として、学会や研究会での情報交換時や論文雑誌を通じて問い合わせを頂いた症例について解析を進め、臨床所見をまとめた。 解析は末梢血ゲノムDNA、培養リンパ芽球から抽出したSLC7A7mRNAを用い、本遺伝子のダイレクトシークエンスを行った。 現時点で34例の解析を施行、31例で変異を確認した。1例はその後の諸データから本症を否定した。2例は解析困難症例で、現在も解析を続行中である。 その結果、過去に見いだされた北東北地区の高頻度変(RT410X)はやはり東北から関東地域にて確認され、東日本に地域集積性がみられた。一方臨床症状の調査においては、重度の精神発達遅滞や神経症状を有する新規罹患者がみられず、本疾患の早期診断、早期治療が広まりつつあることを示すものと思われた。本研究期間に同定した新規変異はなく、全てが当教室既報の変異と同一であり、本邦LPIの遺伝子変異が日本人特有である(海外の変異とは種類の重なりがない)ことを更に裏付ける結果であった。 一方、遺伝子型と臨床型との関連の検討においては、現時点では両者に相関はないと結論づけられた。
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