インフルエンザは、ウイルスが気道粘膜に感染することで起こる急性の呼吸器感染症であるが、特に小児ではインフルエンザ脳症や多臓器不全など重症化する傾向がある。これらの患者検体あるいは感染動物を用いた解析により、3つの重症化を誘発する因子(1.内因性の因子、2.外因性の因子、3.代謝性の因子)の存在が本研究で明らかになった。 1)内因性の因子 内因性の因子としては、ミトコンドリアの脂肪酸代謝酵素であるCPT2に特定の遺伝子多型がある患者では、インフルエンザ感染による高熱時に細胞のATPレベルが枯渇し、重篤な症状が現れることが明らかになった。従って、患者の遺伝子の多型解析を行うことで、早期に疾患リスク診断が可能となった。他にも、患者の採血した血液のATPレベルを正確に測定する方法を開発し、これを指標としたインフルエンザ患者の予後の予測が可能であると考えられる。 2)外因性の因子 外因性の因子としては、ウイルス感染によるストレス、ジクロフェナック等の投与などが挙げられる。 3)代謝性の因子 成人とは異なり、小児では特に脂肪酸代謝によるエネルギー産生系が重要であることが明確になった。 今後は、種々の遺伝子ノックアウトマウスを用いた感染実験を試み、インフルエンザ感染後に脳症が起こる詳細な機序について解明する。また、上記の3つの重症化因子を標的とした安全なインフルエンザ脳症の予防法・治療法の確立を行う予定である。
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