研究概要 |
本研究はGM2ガングリオシドーシスの一種であるサンドホフ病(SD)の中枢神経系における炎症メカニズムを解明し,その関連分子を標的にした治療法の確立を目的とする。平成19年度は,炎症反応に自己抗体が関与しているかどうかを,SDのモデルマウス(SDマウス)と,抗体を認識する受容体を欠損させたSDマウス(FcRγ鎖遺伝子ノックアウトSDマウス:FcDKOマウス)を用いて検討した。 (1)中枢神経系における炎症関連遺伝子の発現をタンパク質アレイまたはReal-time PCR法を用いて解析したところ,TNF-α,CXCL-13,IL-6等が末期15週齢のSDマウスでは同週齢のWTマウスより高発現していたが,同週齢のFcDKOマウスではSDマウスより低値を示した。 (2)SDマウスは,8週齢頃より蓄積が有意に認められ,10週齢頃より緩やかな神経症状を呈する。その後,自己抗体が産生され始める13週齢より急激に神経症状が重篤になり,15週齢までに死亡する。(1)で高発現の見られた遺伝子の発現を経時的に定量した結果,SDマウスにおいて13週以降にTNF-α,CXCL-13の発現上昇が見られた。 (3)15週齢のSDマウスの脳では主に視床と橋において増加したマイクログリアが炎症反応を引き起こしているが,炎症反応の起因は明らかではなかった。我々は15週齢のSDマウスにおいて神経細胞への抗体の沈着を見出した。また,15週齢FcDKOマウスでは抗体の沈着およびマイクログリアの浸潤に明確な違いは認められず,また,マクロファージ/マイクログリア遊走性ケモカインMIP-1αの発現量に有意差は認められなかった。 以上の結果から,SDにおけるマイクログリアの引き起こす炎症反応は,自己抗体を介した反応であることが示唆された。これまで,炎症反応は蓄積に依存すると予想されてきたが,今回我々の研究により炎症反応に自己抗体の関与が示唆されたことで,治療の新しい標的として免疫反応を抑えるような治療法が有効である可能性が考えられた。
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