免疫細胞は免疫応答を行うだけでなく、サイトカイン類を分泌することによって、脳神経系の細胞の活動性を調節できる。また、脳神経活動の変化は末梢神経を介してあるいは直接、内分泌腺の分泌機構を修飾することで最終的に免疫系に還元される。この機構は生態防御機構として重要である。免疫系は完全ではないが胎児にもある。したがって、妊娠期に母体が感染症にかかると母・胎児の両方の免疫系が活性化されることによって、胎児の中枢神経系の発達に影響を与える可能性が高い。しかし、免疫系で機能するサイトカインの胎児の脳形成に及ぼす影響を調べた報告はほとんどない。そこで、本研究では、いくつかのサイトカインのマウス大脳皮質形成に及ぼす機能について調べた。 ここでは、もっとも研究の進んだ幹細胞因子(stem cell factor : SCF)の大脳皮質形成に及ぼす作用について詳細に述べる。大脳皮質は6層の神経細胞層よりなり、各層の神経細胞は層に固有の遺伝子発現、軸策投射、形態などをもつ。神経細胞層が構築される胎生期にSCFの作用を受けた大脳皮質では、脳髄膜直下あるいは脳梁において、異所性の神経細胞塊が形成され、その細胞塊にはアストロサイトおよびII-VI層のすべての神経細胞の両方が含まれていた。この異所性の神経細胞塊はそれぞれ言語障害や重度てんかん患者の大脳皮質にみられる病理所見と類似しており、胎児の大脳皮質のSCF含量の増大あるいはそのシグナルカスケードの過剰な活性化はこのような大脳皮質の発達障害につながる可能性を示唆した。現在、そのメカニズムを明らかにするとともに母体の感染症時における胎仔大脳皮質におけるSCFあるいはその下流のシグナル分子の発現量などを解析中である。
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