研究概要 |
本研究の目的は、咽頭弓と血管の発生におけるイノシトール三リン酸受容体(IP_3R)の役割を解明することである。前年度、我々は、1型および3型IP_3Rが発生初期から咽頭弓と血管に発現し、1型および3型IP_3Rダブルノックアウト(1, 3IP_3RDKO)マウスの咽頭弓と原始血管叢に異常が認められたことから、1型および3型IP_3Rは咽頭弓および血管発生の初期に重要であることを示した。今年度の研究内容は、以下の通りである。 1. Whole-mount in situ hybridization(WISH)法を用い、咽頭弓の細胞系譜・組織の特異マーカーの発現を比較検討した。1, 3IP_3RDKOマウスにおいて、外肺葉、内胚葉、中胚葉マーカーの発現は保たれていたが、神経堤細胞マーカーの一部に、咽頭弓特異的に発現の低下が認められた。 2, vasculogenesis、angiogenesis、血管内皮、血管平滑筋、壁細胞のそれぞれのマーカーの発現をWISH法や免疫組織化学法で比較検討した。1, 3IP_3RDKOマウスでは、原始血管叢は形成され、血管内皮細胞マーカーの発現は初期から保たれていたが、angiogenesisマーカーや壁細胞マーカーの発現が低下し、血管リモデリングが障害されていた。 3.IP_3R機能阻害薬存在下で、血管内皮細胞を用いたin vitro tube formation assayを行ったところ、管腔形成能は阻害薬非存在下と同等に維持されていた。 以上より、IP_3Rは咽頭弓発生および血管リモデリングに必須であることが示唆された。本研究の意義は、細胞内カルシウムシグナル経路の中でIP_3Rが咽頭弓・血管発生に重要であることを初めて直接示した点にあり、本研究結果は発生学・血管再生学に新たな知見を与えるという点で重要である.
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