研究概要 |
書面でインフォームドコンセントを得たシルバーラッセル症候群(SRS)患者64例を対象として,末梢血白血球からゲノムDNAを抽出し,第11番染色体IGF2-H19ドメインメチル化可変領域(H19-DMR)のメチル化解析,各々の臨床症状の検討,第7番染色体および第11番染色体の片親性ダイソミーの解析を行った。 【メチル化解析】末梢血ゲノムDNAを亜硫酸塩処理し,COBRA法でH19-DMRのメチル化状態を解析した。メチル化係数を算出し正常コントロールのそれと比較することで,20例をエピ変異陽性群,40例を陰性群と判定した。この結果をbisulfite sequence法により確認した。 【臨床症状の解析】エピ変異陽性群は陰性群に比し,より重度の胎盤低形成と生下時成長障害,及びより高頻度の奇形徴候(骨格の左右非対称,相対的頭囲拡大,筋緊張の低下,口角下垂)を有した。 【片親性ダイソミー解析】第7番および11番染色体上のマイクロサテライトマーカーを用いて片親性ダイソミーの検出を試みた。その結果,4例に第7番染色体母性片親性ダイソミーが認められ,全例が胎盤低形成を伴った。第11番染色体の母性片親性ダイソミーは認められなかった。 以上の結果から,(1)エピ変異に伴うIGF2遺伝子の発現低下が成長障害を招き,典型的症状を伴うSRSの発症に関与していること,(2)第7番染色体母性片親性ダイソミーもSRSの原因であり,胎盤機能障害の関与が示唆されること,が示された。引き続き第11番染色体LIT1-KIP2ドメインのメチル化解析,胎盤病理標本の解析等を行い,SRSをまねくインプリンティング異常の病態解明と治療法確立へのアプローチを試みる予定である。
|