研究概要 |
平成20年度の実験では東京電機大学(理工学部生命理工学系舟久保昭夫教授研究室)のプロトタイプ膜型肺(膜面積0.30m^2)を導入したことによって,人工胎盤回路を用いてヒツジ胎仔を6-12時間生存させることが可能となった(n=6).しかし,いずれも経過とともに末梢循環不全による高乳酸血症が進行したため,それ以上の循環管理の継続は困難であった. 今年度の実験では,高乳酸血症の進行を食い止めるため,ヒツジ胎仔と人工胎盤回路を恒温槽(39℃の生理的食塩水)に浮遊させ,不感蒸泄による体温喪失を最低限にできる中性温度環境下で実験を実施した(n=8). その結果,3頭のヒツジ胎仔において15~30時間の生存を達成した.これらのヒツジ胎仔では輸血なしで十分な中心静脈圧を維持することができ,循環血液量を自動補正するためのリザーバ回路は不要であった.人工胎盤回路内の血流量は概ね100~200ml/minの間で変動し,体血圧との間に負の相関が認められた.すなわち,体血圧が高くなれば人工胎盤の血流が増え,動脈血pHは上昇,pCO_2は減少した.その結果,体血圧は低下に向かい人工胎盤血流は減少した.すると今度は動脈血pHが下降,pCO_2は増加することとなり,必然的に体血圧は上昇した.このような適応反応は30時間生存した胎仔で最も顕著に繰り返し認められた.また,今年度においては,実験を中断せざるを得なかった第一の理由は,高乳酸血症の進行というよりはむしろ膜型肺の劣化(中空糸の目詰まりや液漏れ破損による酸素化能・換気能の低下)であった. 加えて,上記の3頭では出生前24時間,出生後2時間,出生後8時間の3回にわたって各臓器の血流量を測定することができた(colored-microspher法).血流量の増加もしくは維持が認められたのは副腎と左右心筋で,脳組織では血流量が減少しており,とくに皮質,白質,小脳ではその減少が著しかった. 今後は膜型肺を適時交換しながら人工胎盤による循環管理のレベルアップをはかることが重要である.
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