研究概要 |
乳幼児突然死症候群には多因子の関与が考えられるが,生後1年未満に死をもたらすことなどから何らかの先天的素因の関与が疑われる 今回,乳幼児突然死症候群の日本人犠牲者の剖検組織を用いて,遺伝性不整脈であるQT延長症候群やブルガダ症候群の主要原因遺伝子(KCNQ1,KCNH2,SCN5A)を調べた. 方法 1.乳幼児突然死症候群により死亡した症例の検体を集めて,ゲノムDNAを抽出した. 2.心筋イオンチャネル遺伝子(KCNQ1,KCNH2,SCN5A)の翻訳領城とイントロン-エクソン境界部位をPCR法により増幅し,遺伝子異常のスクリ一ニングはDenaturing High Performance Liquid Chromaography(DHPLC)法を用いて行った. 3.DHPLC法により変異が示唆されたDNA断片にっいては塩基配列を決定した.正常人150人を対照として,変異が多型か否かを調べた. 結果 SIDS42例中,その9.5%にあたる4症例に計5つの遺伝子変異を検出した.内訳は, KCNQ1, KCNH2 に1つずつ,SCN5A に3つ,いずれもミスセンス変異であった. 1症例で KCNH2 とSCN5A の両方に変異を認めた. SCN5A の F532Cを除いて,これまでに報告がない変異であった. これらの結果から,日本人の SIDS の約10%は遺伝性不整脈の関与が考えられた.そして, SIDS の病態として少なくとも一部には下整脈が関与していると考えられた. 多くの変異はde novo の変異と考えられるが, 遺伝によるものの存在も予想される.分子生物学的な解析は,病因の同定のみでなく,残された家族の生命を守ることにもなる. 引き続き,検出した変異を導入したイオンチャネルをカエルの卵細胞や哺乳動物細胞において発現させ,正常および変異チャネルの電気生理学的特性を比較し,遺伝子変異が心臓の電気活動に及ぼす影響について検討する.
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