CHARGE症候群の患児では誤嚥や嚥下障害が予後にも関わる重要な臨床症状である。これらの臨床症状は第IX・第X脳神経の異常と関係があると考えられており、しばしば後鼻孔閉鎖や口蓋裂の存在によって症状が増悪する。我々を含めた複数の報告者が、胎児期の抗甲状腺薬の投与によってCHARGE症候群様の奇形症状(コロボーマ、後鼻孔閉鎖)が誘発される可能性を指摘している。そこで本年度は、抗甲状腺薬の投与とCHARGE症候群様症状の出現、CHD7遺伝子の発現パターンの変化など、以下の点についてニワトリ胚およびマウス胎仔を用いて検討した。(1)ニワトリ胚およびマウス胎仔へ抗甲状腺薬(methimazole)の投与を行い、コロボーマ、後鼻孔閉鎖の出現の有無を調べたが何れの症状も確認されなかった。(2)マウス胎仔にmethimazole (MMI)の投与を行い、CHD7遺伝子のmRNA発現量をMMI投与群と非投与群とで定量PCR法を用いて比較したところ、MMI投与群でCHD7遺伝子の発現の低下が認められた。(3) MMI投与群と非投与群とで、嚥下機能を担う脳神経(第IX・第X脳神経)の細胞体におけるCHD7遺伝子の発現量の変化を、抗体染色法とlipophilic tracerを組み合わせた手法で検討した。しかし、明確な結論を得ることはできず、実験手技を含めた更なる検討が必要と考えられた。CHD7遺伝子の発現は大脳にも認められており、嚥下機能は大脳皮質から脳幹部への投射によっても支配されていると予想されている。マウスでは胎仔期からの抗甲状腺薬の投与によって出生直後から体重増加不良が認められることが知られている。体重増加不良のひとつの原因として哺乳不良が考えられ、本研究によって、そのメカニズムの一端としてCHD7遺伝子発現の低下が関与している可能性が示唆された。
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