胎盤(絨毛)を構成するシンシチオトロホブラスト(SyncytioT)は、単核のサイトトロホブラスト(CytoT)が分化・融合(シンシチウム化)した多核の栄養膜細胞であり、妊娠維持に不可欠な絨毛性ゴナドトロピン(hCG)やプロゲステロンを分泌する。微小管制御因子として知られるスタスミンは、未分化なCytoTで発現し、CytoTが分化したSyncytioTではその発現がみられない。絨毛癌細胞(BeWo細胞)や単離した栄養膜細胞へのcAMPアナログ(ジブチリルcAMP)処置によりSyncytioTへの分化をin vitroで再現することが可能である。そこで、この分化モデルを用いてSyncytioTへの分化過程におけるスタスミンの役割をhCGβの産生や細胞融合を指標として解析した。BeWo細胞と妊娠初期の胎盤組織から単離した栄養膜細胞では、ジブチリルcAMP処置によりhCGβの産生が高進し、この分化と共にスタスミンの発現は低下した。また、BeWo細胞では分化刺激により細胞融合マーカーのシンシチンの発現高進と細胞融合による多核の細胞が多くみられた。しかし、siRNAにより予めスタスミンの発現を抑制したBeWo、単離栄養膜細胞では、分化刺激によるhCGβ産生が抑制された。BeWo細胞では、スタスミン発現抑制によりシンシチンの発現低下と多核細胞数の減少がみられた。さらに、テトラサイクリンに応答してスタスミンの発現が誘導されるBeWo細胞を作製し、分化に対するスタスミン強制発現の効果について検討したところ、スタスミンsiRNA処置により低下したhCGβ産生及びシンシチン発現は、スタスミンの発現誘導により回復した。以上の結果より、胎盤形成に不可欠な栄養膜細胞の分化にスタスミンが関与することを明らかとした。今後は、栄養膜細胞の子宮内膜への浸潤におけるスタスミンの役割について解析していく予定である。
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