研究概要 |
胎児由来栄養膜細胞は、子宮内膜の脱落膜組織中のらせん動脈血管内皮に浸潤し、胎児・母体間での物質交換を開始する。この浸潤過程の異常は、妊娠高血圧症などの病態と密接に関連することが知られている。今年度は、栄養膜細胞の浸潤における微小管動態調節因子スタスミンの役割について解析した。なお、栄養膜細胞の浸潤を評価するためのモデルとして、トランスウェルのフィルター上に脱落膜細胞を播種した系を作製した。本実験進行中に同様のモデルが、他の研究グループからも発表された(Spessotto et al., 2006J Cell Sci. 119 : 4574)。絨毛癌細胞株(BeWo、JEG-3)、絨毛外栄養膜細胞株(HTR-8/SVneo)、妊娠初期の絨毛組織より単離した栄養膜細胞におけるスタスミン発現をsiRNAにてノックダウンし、浸潤への影響について検討したところ、コントロールsiRNAを処置した対照群と比較して、スタスミン発現の抑制によりこれら用いた全ての細胞の浸潤が抑制された。栄養膜細胞では、ゲラチナーゼ活性を有するメタロマトリックスプロテナーゼ(MMP)-2、-9が子宮内膜への浸潤に関与していることを示唆する報告があるため、スタスミン発現抑制時の培養メディウム中のMMP-2及びMMP-9の活性をゲラチンザイモグラフィー法により検討したが、スタスミンのノックダウンは、これら細胞のMMP-2、-9活性に対して影響しなかった。また、BeWo、JEG-3、HTR-8/SVneo細胞の増殖に対するスタスミンノックダウンの影響について検討したところ、上記の浸潤アッセイと比較するとその作用は弱いものの、有意な細胞増殖の抑制効果がみられた。以上より、ヒト栄養膜細胞に発現するスタスミンは、胎盤形成に不可欠な栄養膜細胞の浸潤、増殖および、前年度明らかにしたようにシンシチオトロホブラストへの分化に関与する因子であることが明らかとなった。
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