研究概要 |
低酸素性虚血性脳症には,脳内グルタミン酸濃度上昇による興奮毒性が関わり,その際に産生されるプロスタノイドが神経細胞死や神経細胞保護,またはグリア細胞などの制御に重要な働きをしていることが知られている。本研究は興奮毒性試薬であるカイニン酸を用いて,実験的低酸素性虚血性脳症モデルラットを作製し,プロスタノイドの産生抑制を機軸とした治療戦略を開発することを目的に研究を行った。これまでの検討において,カイニン酸を投与したラット海馬において,初期相と後期相で構成される二相性のプロスタノイド産生が起こることを報告しており,本年度は二相性プロスタノイド産生の生理的意義を明らかにするために,プロスタノイド産生阻害剤であるインドメタシンをカイニン酸の前に投与(初期相・後期相両方阻害),後に投与(後期相のみ阻害)したときの神経細胞死やグリア細胞の活性化を組織学的に評価した。解析の結果,インドメタシン前投与,後投与ともに30日後の神経細胞死やそれよりも早い時間のミクログリア活性化を抑制し,興奮毒性の急性期に産生される初期相、後期相が共に神経細胞傷害に関与することが示された。急性期におけるプロスタノイド産生,とりわけその後期相を抑制することによって,神経細胞死の抑制が可能であったことは,低酸素性盧血性脳症の興奮毒性による神経細胞死がプロスタノイド産生抑制により予防,治療できる可能性を示している。
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