初年度の調査では、外来を初診した高機能広汎性発達障害の成人を対象とした調査を実施し、就労の阻害要因として、併存精神疾患の存在、家族サポートの弱さ、過去のいじめや不登校などの心理社会的要因の存在があげられること、その一方で、就労支援や医療的サポートが就労を促進することなどが明らかにし、その成果を公表した。本年度は、初年度の研究で明らかになった就労の阻害要因のうち、就労・復職支援に焦点を当てた検討を行った。就労を実現している広汎性発達障害の成人は、対人関係や業務への不適応から抑うつなどを呈して外来受診、さらには休職に至るケースが多く見いだされるが、復職にあたっては職場環境の調整が重要になる。この点において、産業医が重要な役割を果たし、慣らし勤務、就労制限、勤務調整などの処置を行っている。しかし、広汎性発達障害と診断した主治医の多くは、広汎性発達障害の存在について必ずしも伝達しておらず、通常の「うつ」として復職が行われていることが明らかになった。その背景には、職場に伝えた病名が職場内でどのように用いられるか、スティグマによる被害を受けないか、また伝達したとしても、職場内における知識や理解が不十分であり、適切な環境調整がどの程度行われるのかが不明確であることが挙げられた。ただし、産業医との連携が行われていないケースのうち、職場の上司等に主治医が環境調整を依頼したケースはなく、就労状況における環境調整を進めるには産業医の役割を重視すべきであると考えられた。この点を解決するためには、産業医の教育と主治医と産業医の積極的の連携が必要であると考えられ、この点を学会において発表した。
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