本研究では、気分障害の発症機序における選択的スプライシング機構の役割を深く探究することを目的とした。平成20年度は気分患者末梢白血球における主要な選択的スプライシング制御因子SRp20の標的遺伝子群の発現量を比較検討した。その結果、大うつ病性障害患者うつ状態におけるNogo-BmRNA発現量は健常群に比し有意に増加していた。また、カルシトニン遺伝子mRNA発現量も大うつ病性障害患者うつ状態において有意に低下していた。以上の結果から、気分障害患者におけるSRp20を介した選択的スプライシング異常の存在が示唆された。 さらに、薬物治療抵抗性うつ病患者におけるカルシトニン遺伝子mRNA発現量は薬物反応群に比べて有意に低下していたことから、難治例の生物学的指標となり得る可能性が示唆された。 一方、気分障害患者においてSRタンパク以外のスプライシング制御因子nPTBの発現量を測定したところ、健常者に比し有意に低下していた。さらに培養細胞を用いた検討から、nPTBがうつ病との関連が強く示唆されているBDNF遺伝子の選択的スプライシングに関与していることが示唆された。 これらの結果は選択的スプライシング異常が気分障害の発症機序の一端を担っている可能性があり、本研究結果の精神医学的意義は大きい。
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