私は、主に統合失調症の聴覚言語処理に関する脳機能画像研究をおこなった。統合失調症の臨床症状である幻聴や思考障害の脳機能病態を理解することは臨床的に重要である。幻聴や思考障害の神経基盤を解明するため、大脳半球左右差に着目し、左半球の意味言語処理に対する脳活動と右半球のヒトの声の認知に対する脳活動について検討を行った。我々の研究では、健常対照群に比し統合失調症群で左半球の計語処理時の脳活動が低下し右半球のヒトの声の認知時の脳活動が低下することを明らかにし、統合失調症の脳病態には、左半球だけでなく右半球も含めた広範な大脳の障害が関与することを明らかにした。さらに、感情の含まれる声の抑揚(音声プロソディー)の認知機構の脳機能画像研究にも取り組んだ。音声プロソディーの理解には健常対照群では聴覚野や扁桃体を含め右側頭葉の機能が関与するが、統合失調症群では幻覚妄想や思考障害が顕著なほど左前頭葉の活動が亢進し、抑うつや被害妄想などの陰性症状が顕著になると左側頭葉の活動が亢進することを明らかにし学会で報告した。また、特定の遺伝子多型の違いによる脳機能の相違を明らかにするための研究基盤の確立を推進し、精神疾患における遺伝子個別化医療の実現にむけた研究を継続中である。さらに、認知症の周辺症状として存在する幻覚妄想は、在宅医療や施設入所にも重大な影響を引き起こすが、統合失調症の精神症状の理解を踏まえ認知症の家族の介護負担に関する評価法の開発も行い、学会で発表した。今後も、統合失調症や認知症の周辺症状を含めた問題行動に対する脳機能画像研究や遺伝子研究・認知心理学研究を含め総合的に病態を評価し治療できるような最先端の研究の構築を推進していきたいと考えている。
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