本研究では、行動異常と脳内での分子発現・形態変化をより直接的に関連づけるアプローチとして、精神疾患モデル動物に対し、動物専用高分解能ポジトロン断層撮影装置(マイクロPET)を用いたin vivoでの解析を試みている。それにより、抗精神病薬、抗うつ薬等の作用点であるドーパミン、セロトニンをはじめとした各種受容体の発現や脳糖代謝を同一個体の脳で測定し、行動異常を担う神経機能を同定する新たな系が確立されることが期待される。モデル動物には、精神疾患様の行動が報告されているカルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIα(CaMKIIα)ヘテロ欠損マウスを用いた。 マイクロPETによるin vivoでの神経機能の測定 神経伝達物質の各種受容体(ドーパミンD1・D2受容体、セロトニン5HT_<1A>受容体)に結合する放射性薬剤や糖代謝のトレーサー([^<18>F]fluoro-deoxy-glucose)を用いて、マイクロPETによるマウス脳のスキャンを行った。現在これらの画像データを定量解析し、精神疾患様の行動異常の1つである自発活動量の周期性の異常との相関関係を分析中である。 分子発現・組織学的な変化の測定 In vitroオートラジオグラフィーを用いて神経伝達物質の受容体結合能を測定した結果、特に海馬においてドーパミンD1受容体、セロトニン5HT_<1A>受容体の結合能の異常が認められた。異常が認められた神経伝達神経受容体の発現変化やin vivoでの神経伝達物質の放出をそれぞれ免疫組織学的手法、マイクロダイアリシス法により測定し、機能変化を担うメカニズムのさらなる追究を行っている。 また、異常が認められた神経伝達機能を、神経受容体作動薬/阻害薬等の投与により亢進/抑制し、それらの行動異常や機能変化への影響を解析することで、行動異常を担う神経機能の確定を試みている。
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