がん診療における画像診断は、主としてCTやMRI、そして近年普及しつつあるPETが大きな役割を果たしてきた。従来はがんの発見や良悪性の鑑別が主な目的であったが、最近では治療効果予測、治療効果判定、予後予測といった、より治療方針に直結する情報の重要性が増しつつある。特に、機能分子イメージングであるPETでは、適切なPET用標識薬剤を用いることでがん細胞・組織に特徴的な分子発現異常や微小環境状態に関する情報を得ることができるため、それをバイオマーカーとして利用することで化学療法における抗がん剤の選択、治療継続あるいは変更の判断、放射線治療の併用といった治療方針の決定がより論理的かつ積極的に行えるようになると考えられている。このような背景を踏まえ、がんの成長と転移に深く関与し近年抗がん剤開発の標的として重要視されている腫瘍血管や低酸素に着目し、将来的にPETによる腫瘍の悪性度診断や血管標的薬剤による治療効果予測・予後予測につながるような分子イメージング研究を計画した。 腫瘍組織中の血管はがん組織の成長に不可欠な酸素と栄養素の供給経路として、またがん転移プロセスにおけるがん細胞の移動経路として重要な役割を果たしている。さらに血管新生は細胞の低酸素状態と深く関連していることが知られている。そこで本研究では、血管新生に深く関与しているマトリックスメタロプロテアーゼ-2(MMP-2)の発現・活性状態の評価を目的としたPET用MMP-2イメージング剤、および低酸素細胞選択性が高いとされるnitroimidazole誘導体の代表であるMisonidazoleの^<18>F標識化合物の合成を試み、成功した。次年度は動物実験により、これらトレーサーの腫瘍および臓器分布を評価していく。
|