本研究の目的は、アルツハイマー病(AD)の「超早期」診断を目指し、分子イメージング技術を用いてAD脳病態を解明するための、インビボ放射性分子プローブを開発することにある。すなわち、AD確定診断の指標となる老人斑(Aβプラーク)の構成成分であるβアミロイドタンパクについて、その産生の律速酵素であるβセクレターゼ(BACE-1)を対象とし、本年度は以下に示すプローブの合成と基礎的評価を行った。 BACE-1の基質となるアミロイド前駆体タンパクの遷移状態を模倣した、本酵素への高い親和性を有する低分子阻害剤、hydroxylethylamine isoster誘導体(HEA)を母体化合物として選択した。本化合物を123I標識することでSPECT用プローブに展開することを考え、構造中幾つかの位置にヨウ素を導入した化合物についてコンピュータ計算によるドッキングシミュレーションを行った。その結果、結合親和性の指標となるPMFスコアが母体化合物と同等であり、BACE-1への親和性を保持していることが期待された化合物(I-HEA)についてさらに検討を行った。 I-HEAを合成し、FRET assayによってBACE-1阻害活性を実測した結果、IC50値はnMオーダーであり、本化合物は所期の通り高い阻害活性を示した。さらに対応するアルキルスズ置換体から2段階反応による放射性ヨウ素標識体の合成を試み、[125I]I-HEAを放射化学的収率3.3%、放射化学的純度95%以上で得ることができた。[125I]I-HEAを正常若齢ddYマウスに静脈内投与したところ、脳への取込みの最大値は0.14%ID/gであった。
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