研究課題
若手研究(B)
【背景】腫瘍細胞の無秩序な増殖と代謝によって、固形腫瘍内部には血管から十分な酸素が供給されない"低酸素領域"という微小環境が生じる。低酸素環境に曝されたがん細胞はHIF-1という転写因子を活性化し、環境への適応を図る。HIF-1の活性化はがんの転移、浸潤、血管新生、放射線治療抵抗性を誘導することが報告されていることから、「腫瘍増殖過程や放射線治療期間中にHIF-1活性が如何に変動するのか?」、「HIF-1陽性細胞が如何に挙動するのか?」が重要な研究課題となっている。【目的】本研究では、固形腫瘍内のHIF-1活性をリアルタイムに可視化するシステムを確立し、腫瘍増殖過程、および放射線治療後のHIF-1陽性細胞の挙動をイメージングし、時空間的に解析することを目指した。そして、次世代の高精度放射線照射技術(強度変調放射線治療:IMRT)で線量を集中すべき治療標的の挙動を捉えることを目指した。【結果】1) 以前より我々が開発を進めてきた「HIF-1依存的にルシフェラーゼを発現する5HREp-lucレポーター遺伝子」に改良を加え、低酸素応答性を約47000倍にまで高め、よりリアルタイムにHIF-1活性の変動を感知するレポーター遺伝子5HREp-ODD-lucを構築することに成功した。 2) 当該レポーター遺伝子を安定に導入した移植腫瘍に対して放射線(γ線)を照射し、その後のHIF-1活性を光イメージングした。その結果、放射線照射6時間後に腫瘍内HIF-1活性がVHL依存的に一過的に減少し、逆に照射24時間後にはPI3K/Akt系依存的に亢進することが明らかになった。これは、放射線の分割照射プロトコールを確立する上で重要な知見である。 3) 有酸素環境下で緑色蛍光を発し、低酸素環境下で赤色蛍光を発する遺伝子組み換え癌細胞を樹立した。当該細胞を免疫不全マウスに移植して腫瘍増殖過程におけるHIF-1陽性領域のダイナミクスをミクロレベルでイメージングすることに成功した。HIF-1陽性細胞は日ごとにその局在を変え、常に血管から数10〜100ミクロメートル程度離れた位置に存在していた。当該ミクロイメージングにより、血管からHIF-1 陽性領域までの距離が当該血管の径に逆相関する事が明らかになり、血管造影像を基にHIF-1陽性領域の局在をシュミレーションするための予備データを取得することに成功した。 以上の結果をもって、「腫瘍増殖過程、および放射線照射後のHIF-1 活性のダイナミクスを解明する」という当初の計画を完遂することができた。
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