研究概要 |
CPU, ビデオカード(GPU)が持つ並列演算機能を用いたモンテカルロ計算が実現すると, 物理現象のモデル化を最小限にし, 高精度のシミュレーション計算を数十倍に高速化することが期待できる。本研究では医療用に用いられる直線加速装置を対象とし, モンテカルロ法による3次元線量分布計算をCPUの持つSIMD機能、GPUのプログラム機能を積極的に用いて, 計算精度を損なうことなく1PC当たりの計算速度を従来の20倍に高速化するシステムを開発した。このモンテカルロ法の精度の向上には加速器に入射する電子数(ヒストリ)を画期的に増加させる必要があったが, これをGPUによる128並列計算により実現させた。本手法により1シミュレーションにかかる時間が8時間から20分程度とすることが可能となった。 本研究ではGPU内蔵メモリ内でシミュレーションを完結することが課題であった。これを積分演算の展開, 乱数発生装置のGPU内蔵によりほぼ達成することができた。また, 高速化が進むにつれてメインメモリーGPU間のアクセス回数が増加することが計算時間短縮を困難としたが, 平成20年に導入した階層型可逆圧縮アルゴリズムをGPU内で行うことによりメインメモリアクセスのオーバーヘッドを低減することに成功した。このアルゴリズムをPC間の並列演算にも利用することにより, 線量分布データのネットワーク転送速度の向上も達成され, 10台以上の並列計算においてもほぼ直線的に計算速度を向上させることを可能とした。 本研究の成果により, 複雑・高度化する放射線治療計画をモンテカルロ法により現実的な時間で検証することの可能性が示された。
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