グリベック(STI571)はstem cell factor (SCF)をリガンドとするチロシンキナーゼリレセプターABLおよびKITに対する分子標的阻害剤であり、慢性骨髄性白血病やGastrointestinal stromal tumorsに用いられている。また、STI571自体がDNAの2重鎖切断の修復機能のうち非相同組み換え修復を阻害する機能を有することも知られている。チロシンキナーゼの一種であるEGFRは、放射線照射により自己リン酸化を来たし細胞増殖を加速させることが知られており、KITにおいても同様の現象が生じうるか検討している。今回、ヒト食道癌細胞株(TE-1)、ヒト肺癌細胞株(A549)、ヒト扁平上皮癌細胞株(A431)を用いて、癌細胞の放射線応答におけるKITの活性化と阻害の役割について検討を加えているところである。これらの細胞株では、A549のみでWestern blotting法でKITの発現が認められ、通常の培養液とSCFを付加した場合の細胞増殖能を比較検討すると、SCFを付加した培養液でより旺盛な細胞増殖が見られた。現在は、SCF存在下での放射線感受性の相違やその機序についてKITのリン酸化を含めた活性化の変化を検討しているところである。KITのリン酸化については、それぞれ異なるリン酸化部位を認識する数種類の一次抗体を用いて解析している。KIT発現の解析としては種々の条件において蛍光抗体法を用いての検討を追加し、またKIT下流のシグナル伝達を調べるため、下流に位置するキナーゼの活性を各分子のリン酸化の状態から解析してゆく。その後に、STI571によるKITリン酸化阻害による放射線感受性増感効果について検討を予定している。
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