補助人工心臓は、重症心不全患者に対して主に心臓移植への橋渡しとして用いられる。装着中の患者は、長期にわたる待機期間と行動制限、様々な合併症などの問題に直面しており、しばしば精神的な不安定さが指摘される。このような患者の精神的・心理的ケアは難しく、主要心移植施設の医療従事者は大きな課題と認識しているが、患者の心理社会的状況の分析研究はこれまでに極端に少ない。本研究では補助人工心臓を装着中あるいは装着歴のある患者を対象に半構造化インタビューを行い、社会学の質的分析の手法を角いて分析を行うことで、人工心臓、臓器移植、重症心不全という視点を含めて補助人工心臓装着患者の心理社会的状況を明らかとすることを目的とした。都内大学病院にて補助人工心臓装着されている患者および装着歴のある患者を対象に、患者1名につき60分程度の半構造化インタビューを行った。インタビュー内容は対象者の了解を得た上で録音して逐語録を作成、説明と同意、治療の経験、医療環境、医療者や家族等との関係性、医療支援への評価、今後期待される支援内容等について主眼をおき分析、患者の多岐に渡り複雑な心理社会的問題の現状を明らかにするとともに同意説明のあり方についても考察を行った。それに伴い、具体的な提案として病床の配置の工夫による患者の心理的負担の軽減や、患者交流の場の設定、長期的な視野に立った支援の必要性、サポート体制の重層化、機械操作に対する要望等についても提示した。さらに分析を継続し論文として公表する予定であり、今後の補助人工心臓を用いた治療の発展のための貴重な基礎的資料となると考えられる。
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