研究概要 |
慢性拒絶期にみとめられる移植後動脈硬化(血管内膜肥厚)は, 移植された臓器の生存期間を制限する主な原因の一つといわれており, 接着因子やサイトカインなどが, この病態形成過程に関与することが知られている。昨年度, ADP受容体の一つであるP2Y12受容体欠損マウスを用いて, 移植後動脈硬化進展への関与を検討したところ, 以下の結果を得た。野生型に比して, P2Y12受容体欠損レシピエントマウスにおいて, 頚動脈移植片の血管腔狭窄率が有意に低下した。また, 移植片新生内膜におけるCD45陽性白血球数およびsmooth muscle alpha-actin陽性細胞数が, P2Y12受容体欠損レシピエントマウスにおいて有意に減少した。本年度は移植後の循環血液中サイトカインに着目し検討を行った。頸動脈移植8週間後に血漿を採取し, 抗体アレイ法にてTh1・Th2サイトカインや移植後動脈硬化進展に関与する細胞(炎症細胞など)の動員を促すケモカインMCP-1(Monocyte Chemotactic Protein-1)などを測定した。その結果, 両群でTh1・Th2サイトカインレベルの差はみとめられなかったが, MCP-1レベルがP2Y12受容体欠損レシピエントマウスにおいて有意に低下していた。以上の結果より, P2Y12受容体欠損レシピエントマウスにおけるMCP-1レベルの低下が, 炎症細胞や平滑筋様細胞の移植片への動員を抑制し, 移植後動脈硬化進展が抑制されたと考えられる。今後, 培養細胞を用いてADP, MCP-1の相互作用などのメカニズム解析を進める予定である。
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