c-Myc等いくつかの癌遺伝子はDNAメチル基転移酵素(DNMT3)と結合し、標的プロモーター上に共局在する。これら標的遺伝子はDNAメチル化によりsilencingされている。一方で癌遺伝子BIUF・KRASやN-Mycの活性化・過剰発現とDNAメチル化形質との関連が示唆されており、c-Myc等癌遺伝子が標的遺伝子にDNMT3を誘引しde novoメチル化を誘発するという仮説を立てた。本研究は大腸癌における遺伝子特異的de novoメチル化形成のメカニズム解明を目的とし、c-Mycの標的遺伝子とde novoメチル化との関連を明らかにする。当該年度はヒト大腸由来正常上皮細胞NCM460を用いてc-Mycによる標的遺伝子p21のsilencingモデルを昨年度に加え詳細に検討した。c-Myc発現レトロウイルス感染72時間後よりp21の発現は低下し30日後まで抑制されるものの、p21プロモーターは低メチル化を維持していた。DNAメチル化はBisulfite sequencing法、MeDIP法の他、高感度なMSP法を用いても検出できなかった。また、DNMT3B発現レトロウイルスを共感染させてもc-Myc単独と同様72時間後よりp21の発現は抑制されるが、30日後においてもDNAメチル化の亢進は無かった。他のc-Myc標的遺伝子VHLでも同様な結果であった。一方、新規c-Myc標的候補遺伝子ALEX1は大腸癌細胞株HCT116及びSW480でDNAメチル化によりsilencingされていた。また、大腸癌症例の約70%で発現抑制が見られ、そのうち約20%でDNAメチル化の亢進が検出された。以上より、c-Myc及びDNMT3の過剰発現は標的遺伝子の発現抑制を引き起こすが、de novoメチル化の誘発には不十分であり、当初の仮説に加え、他の因子が影響していると考えられた。
|