本年度は当院における過去の膵臓癌症例の登録、抗癌剤感受性の検討、予後調査などの臨床データベースの整備をおこなった。当院で過去にS-1による化学療法を施行された膵臓癌患者は412人に上った。その中からデータベースをもとに適格症例を選別した。 選別した症例のパラフィンサンプルからのRNA抽出、cDNAへの変換の過程の実験系の確立を行い、RNA抽出キット、逆転写酵素、PCR用試薬などの必要物品の購入をおこなった。 また今回我々は、膵臓癌のプラチナ系抗癌剤に対する感受性を規定する因子として、ERCC1多型に注目した。ERCC1はDNA修復酵素であり、プラチナ系薬剤によって傷害されたDNAを修復する役目を果たしている。そのためERCC1高発現腫瘍はプラチナ系薬剤への抵抗性が強いことが報告されており、ERCC1多型との関係も知られている。我々は標題研究と平行して、同じ検体を用いてPCR-RFLP法を用いたERCC1遺伝子のCodon118多型の遺伝子型の解析と予後についての検討を行った。その結果、変異型遺伝子を持つ個体ではプラチナ系薬剤の感受性が向上していることを確認し、野性型遺伝子を持つ個体に比べ無増悪生存期間、全生存期間で有意差が認められることを確認した。この結果はすでにInternational Journal of OncologyにAcceptされており、近日publishされる予定である。 来年度はこれらの検体を用いて実際のDNAアレイを用いた遺伝子発現測定を行う予定である。
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