昨年に報告した通り、マイクロアレイを用いたパラフィンサンプルからの遺伝子網羅的測定は成功しなかった。そのためreal-time RT-PCRを用いた遺伝子定量に切り替え、これまで膵臓癌治癒切除症例81例を対象に、術後補助化学療法としてGemcitabine単独療法またはS-1単独療法が施行された症例の手術検体におけるmRNA発現量と予後の関係をレトロスペクティブに検討した。その結果、5-FUの分解酵素であるDPDと葉酸代謝関連酵素であるDHFR、FPGS、GGHが予後因子であることが見出された。さらに、S-1が術後補助化学療法として実施された症例においてはGGHが高い症例で予後不良であった。GGHはFPGSによってグルタメート化されたグルタミン酸の切断を行う酵素であり、GGHが高い細胞においては葉酸が細胞外に排泄されやすくなる。よって、膵臓癌症例においてもLeucovorin(LV)を付加することにより5-FUの効果増強作用が期待され、新たな治療法としての可能性が見出された。 そこで我々は、葉酸併用による抗腫瘍効果への影響を検討するために、膵臓癌細胞株(PANC-1、MIA-Paca2)を用いて薬剤感受性試験を施行した。その結果、MIA-Paca2において5-FUにLVを併用することにより抗腫瘍効果が4.9倍増強することが確認された。さらに、これら2種類の細胞株について葉酸代謝関連酵素および5-FU代謝関連酵素のmRNA発現量を測定した結果、FPGSおよびDPDの発現量は高く、一方GGHの発現量は低い傾向が示された。よって膵臓癌の細胞内では葉酸量が低く、5-FUも分解されやすい可能性が示唆された。 以上の結果から、膵臓癌ではDPD作用の抑制および5-FUへ葉酸を併用する化学療法が抗腫瘍効果増強作用に重要である可能性がin vitroの実験により示された。
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