本研究の目的は、臨床において冠動脈バイパス術で心筋viabilityと組織血流の評価を誘電特性を利用しながら術中に行い、虚血心筋の局在と程度を立体的に評価し、適切かつ最大有効なバイパス術のデザインを可能たらしめる事である。 初年度は研究実施計画に基づき、動物実験において正常心筋または虚血心筋の心筋viabilityの評価を施行した。日本白兎を用いて冠動脈左前下行枝を閉塞させることによる陳旧性心筋梗塞モデル、冠虚血再灌流モデルを作成した。術後4週間で経胸壁心エコー検査による壁運動評価と梗塞部位の局在評価を行い、再開胸により肉眼的壁運動の評価及びマッピング、色素注入による冠動脈灌流域評価、病理学的な壊死、線維化領域の評価を行った。 今年度は上記虚血部位の評価を元に、立体的な心筋電極の作成に取り掛かったが完成には至っていない。一方で、当研究の命題である適正冠動脈バイパス術を施行する上で、静脈グラフトの内膜肥厚を抑制する必要があり、下記の如く実験を行い良好な成績を得た。日本白兎の総頚動脈に外頚静脈を吻合し、冠動脈ステントの内膜肥厚防止に用いられている抗腫瘍薬のパクリタキセルを投与してsonoporationを行うと、バイパスのみの群、パクリタキセル投与のみの群、sonoporationのみの群と比較して有意に内膜肥厚を抑制した。この方法は、適正冠動脈バイパス術を可能とする一つの補助手段であると考えられ、今後、誘電特性との対応を検討する予定である。
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