近年の国民的な健康志向の高まりから喫煙率は低下の兆しを見せており、喫煙との関連が強い肺扁平上皮癌の将来的な減少傾向が想定されている。然しながら、我国の女性肺癌の大半は、生涯に渡る非喫煙者に生じた肺腺癌であり、さらには、我が国を含む多くの先進諸国において、喫煙との関連がほとんどない肺腺癌の相対的及び絶対的増加傾向が問題となっている。 研究代表者らは、"機能的に関連した一連の遺伝子セット"を解析単位とする解析手法を用いる事によって、肺腺癌の多様性に関する知見を明らかとした。すなわち、外科切除を受けた肺腺癌症例を解析対象とし、GSEA法を用いることにより、「術後再発死亡群」と「外科切除による治癒群」の2群間で発現が異なる遺伝子が特徴付ける一連の機能(=パスウェイ)の抽出に成功した。また、培養細胞にFDA認可の化合物を加えた際に観察されたmRNA発現プロファイルの変化をデータベース化したConnectivity Mapを用いて、肺癌患者における「再発死亡群」類似のプロファイルから「外科切除による治癒群」類似のプロファイルに変化させ得る薬剤を探索した結果、我々がGSEA法を用いて抽出した"ターゲットパスウェイ"の阻害と抗腫瘍活性をもつ阻害剤が含まれていた。これらの結果は、2つの全く独立したバイオインフォマティクス解析手法による網羅的発現データの活用が、癌化に重要な作用点の一つとして同じ"ターゲットパスウェイ"の抽出に帰結した信頼性を示している。 さらに、この"ターゲットパスウェイ"を基にした術後の判別モデルを用いて、米国スローンケタリングがんセンターで取得された肺腺癌データを解析したところ、統計的に有意に、術後予後良好群と予後不良群に分類することができた。また、肺腺癌細胞株を用いた検討により、"ターゲットパスウェイ"に対する阻害活性を持つ薬剤の感受性予測モデルの構築にも成功した。
|